形成外科とは
体の表面や機能を整える診療科であり、病気やケガ、先天的な異常によって身体の外観が損なわれた場合に、主に外科的手法を用いて改善を図ります。
治療対象は頭皮から足の裏まで広範囲にわたり、外傷をできる限り美しく治癒させたり、外傷や腫瘍の切除によって失われた組織の再建を行います。
取り扱う疾患には、皮膚腫瘍、血管腫、熱傷(やけど)、傷跡などの瘢痕、腫瘍切除後や外傷による組織欠損の再建、顔面骨骨折、褥瘡や糖尿病性潰瘍などの難治性潰瘍、眼瞼下垂、巻き爪、口唇口蓋裂や合指症といった先天的な異常などと多岐にわたります。
治療は主に外科的手法が中心ですが、手術の際には傷跡が目立たないように切開線を工夫し、適切な真皮縫合や形成外科的な縫合を行います。これにより、患者さんの生活の質の向上を目指した医療を提供しています。
皮膚腫瘍外来
皮膚や皮下に発生する皮膚のできものに関する診察および治療を行う外来です。
形成外科専門医、皮膚科専門医が担当いたします。
皮膚の表面や皮下組織に現れるできもの(腫瘍)を診断し、適切な治療を提供します。
皮膚のできものには良性と悪性のものがあり、視診や触診によって初期診断を行うことが可能ですが、ダーマスコピーや超音波をつかった診断も必要になる場合があります。
確定診断のためには手術によってできものを切除し、病理組織検査(顕微鏡で細胞の種類や悪性度を調べる)に提出する必要があります。
手術療法、液体窒素療法、レーザー治療等の中から患者さんそれぞれに適切な治療法を提案いたしします。
皮膚のできものによっては自費治療になる場合があります。(アクロコルドン、スキンタッグ、汗管腫、小さな黒子など)診察時にご相談ください。
一部の皮膚のできものについては自費治療が必要となる場合があります(例:アクロコルドン、スキンタッグ、汗管腫、小さな黒子など)。診察時にご相談ください。
以下に代表的な疾患をご紹介します。
皮膚腫瘍外来
良性腫瘍(代表的なもの)
① 粉瘤(表皮嚢腫、アテローマ)
皮膚の表面から皮下に形成される袋状の構造物に古い角質や皮脂が蓄積されてできるものを粉瘤と呼びます。
これは皮膚において最も一般的なできものであり、半円形に隆起し、直径は通常1~2cm程度ですが、大きいものでは10cmを超えることもあります。
このようにサイズは様々ですが、真ん中の部分には共通して開口部(小さな黒い点)がみられ、ときに臭いにおいがします。
炎症を引きおこす場合があり、赤く腫れたり、膿がでたり、痛みを伴ってくる場合があります。
発生しやすい箇所は、顔面、頸部、背中、耳の後ろなどですが、体中どの部位でも発症の可能性はあります。
また原因は不特定とされているものの、足の裏の粉瘤ではウイルス性のイボやケガなどの刺激をきっかけには腫瘍が発生することがあるといわれています。
治療方法については、炎症がある場合には塗り薬や内服薬で炎症を抑え、痛みが伴う場合には切開排膿を行います。
これは局所麻酔下で腫れている部分を切開し、内部の膿や溜まった角質をできる限り排出する手法です。
しかし、切開排膿のみでは数ヶ月後に再発することが多いため、再発が見られた場合には嚢腫の構造を完全に切除する必要があります。
嚢腫の完全切除は通常、局所麻酔下で日帰り手術として行われます。
標準的な手術では、皮膚と癒着している部分や開口部を含め、皮膚のシワに沿って紡錘形に切開し、袋状の構造を外科的に完全に除去します。その後、形成外科的に縫合を行います。
くりぬき法に関しては、小さい、炎症を起こしていないものの関しては適応になる場合がありますが、炎症を繰り返しているものや部位や大きさによっては適応にならない場合も多いです。
理由としては再発率が高い、大きな粉瘤の場合、陥凹変形がでる可能性がある、止血操作がブラインドになる、皮下や真皮縫合が適切に行えないなどがあります。
手術方法については、診察の際にご相談ください。
② 脂肪腫
脂肪組織の増殖によって形成される良性腫瘍です。
脂肪腫は、皮下組織で発生するケースもあれば、筋肉内や筋肉間、筋膜下で発生することもあります。通常痛みはなく、柔らかいできものを認めます。
頻度としては比較的多いできものです。外観が気になる場合や悪性の可能性が懸念される場合には、手術による摘出が行われ、病理検査に提出されます。
10cm以上の脂肪腫は局所麻酔における手術は困難な場合があります。発症しやすい部位は、背中、肩、頸部のほか、お尻、太腿、上腕などです。発生原因は不明とされています。
治療に関しては、腫瘍が徐々に大きくなる、外見が気になる、良性か悪性か不安な場合には、手術による切除が推奨されます。
部位によりますが、10cm以下の腫瘍であれば、局所麻酔下での日帰り手術が可能なことが多いです。
腫瘍が大きく、術後に出血が創部の中に溜まってしまう可能性がある場合にはドレーンというシリコン製の管を留置することあります。その場合には、術後数日通院が必要となります。
部位によっては、20cm以上の巨大な脂肪腫の場合、全身麻酔下での手術が必要となり、総合病院などへの紹介が行われます。
③ 脂漏性角化症
主に30代以降に顔、頭部、体表に現れる皮膚の表面にできるできものです。
形態は多様で、イボのようなものや、平坦なシミ、大きく盛り上がったものなどが含まれます。
色合いも正常な皮膚色から褐色、黒色に至るまで多岐にわたります。
日光角化症、ボーエン病、基底細胞癌、悪性黒色腫、毛孔腫、汗管腫、尋常性疣贅、老人性色素斑などとの鑑別が求められます。
治療方法としては、液体窒素療法、レーザー切除、外科的切除が挙げられます。
外用薬や内服薬による治療は行えません。症状には個人差があるため、治療法については外来診察時にご相談ください。
悪性の可能性がある場合には、部分皮膚生検または全切除生検を実施します。
④ 石灰化上皮腫
若年者に多く見られる、顔面、頸部、上肢に発生する硬い腫瘍です。
皮膚の下にしこりを感じることが一般的で、石のように硬いことが特徴です。この腫瘍は毛根細胞に由来しています。
表在エコーを用いることで、粉瘤との鑑別がある程度可能です。
治療方法は外科的切除が基本となります。小学生以下の子どもに関しては、手術には通常全身麻酔が必要となるため、総合病院などへの紹介が行われます。
⑤ 外毛根鞘嚢腫
主に頭部に発生し、粉瘤に似た症状を示します。頭皮に腫瘍が形成されると、毛根が腫瘍に圧迫され、脱毛斑(髪の毛が生えない状態)が見られることがあります。
治療法としては外科的切除が行われます。腫瘍を除去することで、脱毛斑は徐々に改善することが一般的です。まれに境界悪性の増殖性外毛根鞘嚢腫が存在することがあり、その場合は切除後に病理組織検査を行い、鑑別を行う必要があります。
⑥ 稗粒腫(はいりゅうしゅ)
まぶたの周囲に現れる白い小さなできものです。これは、軟毛の漏斗部に発生するものや、皮膚の傷や湿疹による刺激が原因で、汗腺や毛包が破壊され、その結果として小さな袋状の丘疹が形成されることによります。
治療方法としては、極小の傷を表面に作り、先端の細いピンセットを用いて内部の物質を押し出します。
通常、麻酔は必要ありません。この処置は外来で行われます。
ただし、小さなお子様の場合は処置が難しいことがあるため、経過観察となることもあります。
⑦ 脂腺増殖症
中年以降において、額や頬に発生しやすい、米粒程度から小豆程度の小さな腫瘍です。特に男性に多く見られる傾向があります。時には多数発生することもあります。
治療方法としては、局所麻酔を用いての切除や炭酸ガスレーザーによる除去が行われます。
診断や治療に関する詳細は、診察時にご相談ください。
⑧ 汗管腫
女性のまぶたに見られる小さな丘疹(小さなできもの)です。一般的に1~2mmの大きさで、しばしば複数発生します。これはエクリン腺と呼ばれる汗腺が局所的に増殖することによって引き起こされます。
治療方法としては、局所麻酔を施した上で炭酸ガスレーザーを用いて除去します。再発しやすいことが特徴です。良性の腫瘍ではありますが、見た目が気になる場合はご相談ください。
⑨ 皮膚線維腫
直径が数mmから2cm程度の半球状に隆起した硬い小結節が見られ、まれに皮下組織に発生することもあります。特に四肢に多く見られる傾向があります。色合いは通常、正常な皮膚の色から褐色にかけてのことが多いです。悪性の隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)との鑑別が必要な場合もあります。
治療方法としては外科的切除が行われます。
⑩ 肥厚性瘢痕、ケロイド
ケガや手術の痕が盛り上がる状態を指します。肥厚性瘢痕は外傷の範囲を超えて周囲に広がらないのが特徴です。一方、ケロイドは外傷の範囲を超えて周囲に進行します。特に、軟骨や骨などの硬い組織が存在する部位に多く見られ、前胸部、肩、膝、アキレス腱部などがその好発部位です。また、ピアスの後に形成される肥厚性瘢痕やケロイドも日常的に診療で観察されます。症状としては、痛みやかゆみがあり、場合によっては周囲の組織との癒着が生じることもあります。
治療方法には、ステロイドの局所注射、ステロイドの貼付剤、圧迫療法、トラニラストの内服などがあります。肥厚性瘢痕は手術や切除、局所皮弁によって改善されることもありますが、ケロイドの場合は手術によって症状が悪化する可能性があるため、安易に手術を行うことは推奨されません。
⑪ 指趾粘液嚢腫
主に指の爪の根元に形成される数mm大の小さな隆起である腫瘍です。Myxomatous typeとganglion typeが存在し、通常は小さな袋状の構造内にゼリー状の液体が含まれています。
治療方法には切除、ステロイドの局所注射、無水エタノールを用いた硬化療法などがあり、外科的処置を行った場合でも再発率が高いことが特徴です。痛みなどの症状が見られない場合には、経過観察を行うか、穿刺によって内容物を注射器で排出し、圧迫固定して経過を観察することもあります。
⑫ 軟線維腫
皮膚の老化に伴う変化として、小さなイボ状やポリープ状に皮膚が隆起する腫瘍が見られます。特に、アクロコルドンは首や脇の周囲に多く発生することで知られています。脂漏性角化症との区別が難しい場合もあります。
治療方法には、液体窒素療法、外科的切除、炭酸ガスレーザーによる蒸散などが含まれます。
悪性腫瘍(代表的なもの)
① 日光角化症
紫外線の影響により、長期間にわたって皮膚が損傷を受け、遺伝子の変異をおこし発生するといわれています。特に顔や手の甲など、日光にさらされる部位に腫瘍が発生することが多いです。これらは上皮内癌と呼ばれ、皮膚の非常に浅い層である表皮に位置する皮膚癌です。腫瘍は肥大型、萎縮型、ボーエン様型、棘融解型、色素沈着型などに分類され、さまざまな症状を示します。
症状としては、軟膏を使用しても改善が見られない赤みや、びらんと呼ばれる湿った皮膚の病変、角状に突出した皮角といったものがあります。診断には部分生検または全切除生検が行われ、病理組織検査によって確定されます。視診だけでは診断が難しいため、正確な診断が必要です。診断が確定した場合には、腫瘍の除去を推奨いたします。
放置すると、遠隔転移を伴う有棘細胞癌に進行する可能性があります。
治療方法としては、外科的切除やイミキモドクリームの塗布が考えられます。詳細な治療法や診断については、外来診察時にご相談ください。症状には個人差が大きいため、それぞれの患者に適した治療法を提案させていただきます。
② ボーエン病
原因は明らかではありませんが、紫外線の影響や慢性的なヒ素中毒が関与していると考えられる上皮内有棘細胞癌です。通常、円形または楕円形で、境界が明瞭で、褐色から黒褐色のできもののことが多いです。単発で見られることが多いですが、時には多発することもあります。
慢性湿疹、乾癬、白癬などの炎症性疾患との鑑別が求められます。診断は部分生検または全切除生検を通じて行われる病理組織検査によって確定されます。
ボーエン病の場合、皮膚悪性腫瘍ガイドラインに従い、適切な安全域を持って切除することが重要です。ボーエン病を放置すると、ボーエン癌に進行し、転移のリスクが高まるため、適切な治療が必要です。診断は部分生検または全切除生検を通じて行われる病理組織検査によって確定されます。ボーエン病の場合、皮膚悪性腫瘍ガイドラインに従い、適切な安全域を持って切除することが重要です。ボーエン病を放置すると、ボーエン癌に進行し、転移のリスクが高まるため、適切な治療が必要です。
③ 基底細胞癌
顔に発生することが多く(約70%)、特に鼻などの正中部に多く見られる傾向があります。通常はやや青みがかった黒いしこりが一般的ですが、無色素性の黒くないタイプも存在します。転移は稀ですが、局所的に浸潤する傾向があり、腫瘍の下部に広がることがあります。結節潰瘍型、表在型、斑状強皮症型、破壊型、Pinkus型など、さまざまな種類が存在し、特に斑状強皮症型は診断が難しいとされています。
ダーマスコピーなどの医療機器を用いて表面を詳細に観察し、この腫瘍が疑われる場合には手術による切除が行われます。確定診断は病理組織検査によって行われます。
治療は基本的に外科的切除が中心となります。ガイドラインに従い、部位や症状に応じて4~5mmの切除マージン(安全域)を確保して切除を行います。腫瘍によって皮膚の欠損が大きい場合には、植皮(皮膚移植)や皮弁(周囲の皮膚を移動させる方法)を用いて皮膚欠損部を再建します。基底細胞癌の場合、ほとんどの症例で局所麻酔下で手術が可能です。
④ 有棘細胞癌
高齢者の顔や手の甲、耳などの露出部位に発生しやすい腫瘍です。初期段階では日光角化症と呼ばれ、日光角化症やボーエン病の一部が進行することで有棘細胞癌に変化することがあり、同じ腫瘍の中に混在することもあります。
症状は角化といって表面が乾燥、粗造化する硬くて赤いできもののことが多いです。また、なかなか治らないジュクジュクした赤みや傷のような皮膚潰瘍、場合によっては隆起性のできものなど様々な形を呈することがあります。数十年前のやけどの瘢痕や外傷が原因となることもあります(熱傷瘢痕癌)。進行すると、遠隔転移が生じることもあります。
診断は部分生検または全切除による病理組織診断が行われます。鑑別診断には慢性潰瘍(下腿潰瘍、放射線潰瘍、狼瘡性潰瘍など)や慢性肉芽腫様疾患(皮膚疣状結核、深在性真菌症、異物肉芽腫、疣状扁平苔癬など)が含まれます。
治療は基本的に外科的切除が行われます。診断が確定すれば、皮膚悪性腫瘍ガイドラインに基づき、TMN分類に従って適切な治療が実施されます。比較的初期の段階であれば、切除によって治癒が可能な場合もあります。遠隔転移やリンパ節転移が疑われる場合は、総合病院に紹介し、造影CTやエコーなどで全身の転移やリンパ節転移の評価を行い、適切な治療を行います。
ある程度の範囲での切除が求められることがあり、腫瘍を切除した後に皮膚移植が必要となる場合もあります。
進行した有棘細胞癌の場合、総合病院でリンパ節転移の有無を確認するためにCTなどの検査が必要になることがあります。初期の段階であれば、当院での治療が可能です。
⑤ 悪性黒色腫(メラノーマ)
悪性黒色腫はいわゆるホクロの癌と称されています。メラノサイト由来の悪性腫瘍です。日本人は掌蹠といって手のひらや足の裏に多く見られる傾向がありますが、体のどの部位にも発生する可能性があります。急速に大きくなるシミや黒子はこの腫瘍の可能性があります。一般的には不規則な形状で、境界が不鮮明であり、色調に濃淡が見られますが、無色素性のメラノーマというものも存在します。危険因子は紫外線暴露、皮膚色、遺伝因子、機械的な刺激などが挙げられています。
病型としては末端黒子型、表在拡大型、結節型、粘膜型、悪性黒子型があります。
メラノーマの診断基準として、ABCDEがあり、A:asymmetry(左右非対称)、B:borderirregularity(境界不鮮明)、C:color variegation(色調濃淡多彩)、D:diameter(大きい、6mm以上)、E:evolution(形状の変化、大きくなる、表面が隆起する、色調が変化する)という所見が特徴的です。
診断は、ダーマスコピーという医療機器を用いて表面を観察したり、皮膚生検によって組織の一部を採取し、病理診断を行うことで確定診断とされます。この腫瘍は進行が速いことが多いため、治療は総合病院などで行われます。手術や化学療法、センチネルリンパ節生検、リンパ節郭清など病期、症状にあわせて様々な治療が実施されます。
⑥ パジェット病
乳房パジェット病と乳房外パジェット病の2種類があります。乳房パジェット病は乳管上皮由来の乳がんの1種であり、乳がんに準じた治療が求められます。主な症状としては、乳頭や乳輪の中心に明瞭な赤みや湿潤した状態が見られます。この疾患が疑われる方は乳腺外科等に紹介が必要となります。乳房外パジェット病は外陰部や肛門周囲の表皮から発生します。境界明瞭な赤み、時には白斑といって色の抜けた皮膚の色を呈し、時にはびらん、痂皮化(かさぶた)します。進行すると腫瘤(浸潤性乳房外パジェット病、パジェット癌)を形成し、リンパ節転移を引き起こす可能性があるため、早期の診断と治療が重要です。診断は皮膚生検によって行われ、湿疹、カンジダ症、ボーエン病、悪性黒色腫のパジェット型との鑑別が必要です。
⑦ 隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)
若年~成人の体幹や四肢に多く見られ、特に男性に多い腫瘍です。皮内や皮下に硬結や平坦な盛り上がりが見られ、徐々に拡大する傾向があります。転移はまれですが、手術で切除しても局所再発の傾向が強い腫瘍です。この腫瘍が疑われる場合や生検で診断が確定した場合は、軟部腫瘍専門の総合病院等へ紹介が必要となります。
⑧ 脂肪肉腫
40歳以降の成人に多く、大腿、臀部、膝窩などに境界不明瞭な大きな腫瘍が発生します。成熟脂肪細胞が悪性化するのではなく、毛細血管周囲の未分化間葉系細胞が悪性化すると考えられています。この腫瘍が疑われる場合や診断が確定した場合には、軟部腫瘍の専門医がいる総合病院への紹介が必要です。
⑨ メルケル細胞癌
高齢者、日光暴露、免疫抑制状態の方にまれに見られる腫瘍で、皮膚のメルケル細胞由来やウイルスの関与に関する報告が近年増加している腫瘍です。かお、体幹、上肢に生じ、サイズは通常2~3cm程度で、淡い赤色~紫紅色の小結節、腫瘍です。
治療は悪性度が高いため総合病院などへの紹介が必要であり、全身的な検査を行った上で、手術は放射線、化学療法等が必要となります。
⑩ 皮膚T細胞リンパ腫
皮膚に原発する末梢T細胞リンパ腫の総称であり、菌状息肉症やセザリー症候群が代表的な例ですが、様々な種類の腫瘍が存在します。症状も進行度によってさまざま異なり、場合によってアトピー性皮膚炎などの慢性湿疹等との鑑別が必要となります。診断は皮膚生検によって行います。
脈管系腫瘍:血管腫、リンパ管腫(代表的なもの)
脈管といって血管とリンパ管の細胞が増殖することによって発生する腫瘍や形態異常の総称です。ISSVA分類が標準的ですが、ここでは以前からの病名の代表的なものについてご紹介します。
① 単純性血管腫
新生児の1.5%に見られるこの状態は、生下時より存在します。隆起しない紅~暗好色の斑で増殖することもなく、自然消退することもないといわれています。
単純性血管腫のなかでもサモンパッチといって眉間、上眼瞼内側、前額正中、人中などに生じる境界不明瞭な細かい毛細血管拡張からなる隆起のない赤みで、生後1歳半までに自然消退するといわれています。一方、うなじにできるウンナ母斑は成人期まで残存することがあるといわれています。
治療は色素レーザーになりますが、当院では現在色素レーザーは扱っておりません。
② 乳児血管腫(イチゴ状血管腫)
生下時、もしくは生後まもなく現れ、鮮やかな色の腫瘤を形成します。乳児の1%に発生し、自然消退傾向があるもの(多くは学童期まで)と瘢痕を残すものがあります。治療法に関しては、昔はwait and seeといって自然消退を待って経過観察のことが一般的でしたが、近年は色素レーザー、プロプラノロール内服、ステロイド内服、局注などを行うこともあります。症例によって治療法は異なることがありますが、一般的に隆起の強いものは色素レーザーの反応が弱いことがあります。
③ 海面状血管腫
皮膚の深層にできる静脈奇形で、皮下にやや青みがかった柔らかい腫瘤として触れることがあります。自然消退の傾向はありません。
④ 被角血管腫
真皮乳頭部の毛細血管が拡張し、角化性の肥厚した表皮がその部位を包むように形成される血管腫です。
⑤ 毛細血管拡張性肉芽腫
米粒~小豆大程度の半球状、有茎性、茸状の隆起した鮮紅色~暗紅色のできものです。出血しやすいことが特徴であり、毛細血管の増生と内皮細胞の増殖がみられます。女性においては妊娠時に発生しやすいとされています。
治療は外科的に切除となります。
⑥ 老人性血管腫
中年以降に、主に体幹に出現する半米粒大の紅色結節です。毛細血管の拡張と増殖によって形成されます。見た目が気になる場合には、レーザーによる焼却が行われることがあります。
⑦ 静脈湖
口唇にできる青紅色の柔らかいできものです。表皮近くの拡張した毛細血管の中に赤血球が存在し、周囲は内皮組織と線維組織で取り囲まれています。まれに悪性黒色腫との鑑別が必要となります。
治療は外科的切除です
⑧ グロムス腫瘍
爪の下に位置する爪床という組織に発生しやすい腫瘤です。暗紅色の硬いできもので、痛みを生じる場合があります。しばしば腫瘍の影響で爪が変形することがあります。小動静脈吻合部のグロムス細胞の増殖によるものと考えられています。
治療法は手術で、爪を部分的に外し、爪床部の腫瘍を切除します。
外傷
外傷
外傷とは、外部からの力が加わることによって皮膚、皮下組織、または内臓に損傷が生じた状態を指します。皮膚や軟部組織に損傷が見られる外傷は、原因によって切り傷、すり傷、刺し傷、熱傷(やけど)咬傷などに分類されます。受賞後すぐに処置が可能であれば、汚染した組織を除去(デブリードマン)や縫合などの外科的な処置を行います。
受傷から処置を行うまでの適切な時間は、かおの傷なら24時間以内、手足や体の皮膚であれば6時間以内が適切といわれています。それ以降になると細菌感染のリスクが高くなるので縫合などの処置が困難になる可能性があります。
浅い傷に対しては、創傷被覆材や軟膏、抗生剤の内服などで治療を行っていきます。
形成外科における縫合の最も重要な特徴は、適切に真皮縫合を行うことです。真皮縫合によって創部の緊張が緩和されることにより、皮膚の表面を縫うだけの場合と比べて、傷跡が術後に広がりにくくなり、瘢痕が目立ちにくくなります。皮膚表面はできるだけ細い糸で縫合し、糸の後ができるだけ残りにくくなるような縫合を行います。表面を細い糸で縫えるのは、適切な真皮縫合が行われているためであり、これが優れた縫合技術の証となります。
熱傷(やけど)
Ⅰ度、Ⅱ度(浅在性、深在性)Ⅲ度熱傷に分類されます。
受傷の原因、部位、年齢によって治療方針は異なりますので、できるだけ早期に、適切な治療を行うことが大切です。受傷から2週間しても上皮化しないような熱傷は深在性Ⅱ度もしくはⅢ度熱傷の可能性があり、場合によっては手術などが必要になる可能性があります。
皮膚に壊死が認められる場合は、デブリードマン(死んだ組織を除去)が必要になったり、皮膚移植が必要になる場合があります。
初期治療は創部の応じて適切な軟膏や創傷被覆材を使用し、湿潤療法にて上皮化を目指して治療していきます。ケロイド体質の方は、上皮化後も瘢痕治療が必要となる場合があります。ケロイド体質の方は、上皮化後も瘢痕治療が必要となる場合があります。ケロイド体質の方は、上皮化後も瘢痕治療が必要となる場合があります。
その他
巻き爪・陥入爪
指の爪が両端で丸まった状態を陥入爪や巻き爪と呼びます。この状態では、変形した爪が皮膚に食い込み、激しい痛みや出血を引き起こすこともあります。
巻き爪の原因には、サイズの合わない靴による圧迫、運動、深爪、歩き方、指にかかる荷重の影響などがあります。また、爪水虫(爪白癬)による爪の変形も、発症の要因となることがあります。
治療には、保険診療と自由診療(全額自己負担)の2つの選択肢があります。
保険診療では保存的治療として抗生剤の内服や外用、爪の処置方法の指導などを行います。必要に応じてテーピングが施されることもあります。
外科的な治療として1つは部分抜爪といって局所麻酔下に食い込んでいる部分の爪を除去する方法があります。これは一時的に痛みを軽減するだけです。2つめに爪母と言って爪が生えてくる根本の部分を外科的に切除、形成する方法です。当院では、児島法、大隅法、フェノール法など、症例に応じた治療を行っています。
術後も適切な荷重がかかる靴使用や、適切な爪切りなどを行わないと陥入爪などが再発する可能性があります。
保険適用外の治療法として、弾性ワイヤーを用いた爪の矯正があります。爪に2カ所穴を開け、弾性ワイヤーを通して爪を矯正します。食い込んでいる部分の爪が平坦に矯正されることにより、痛みが軽減される可能性があります。定期的にワイヤーの交換や爪切りの処置が必要です。弾性ワイヤーによる矯正を中止すると、約半年後には元の巻き爪に戻ることが多いとされています。
眼瞼下垂
眼瞼下垂とは、さまざまな要因により上まぶたが下がり、瞳孔を覆ってしまう状態を指します。これは、上まぶたを持ち上げる筋肉(挙筋腱膜)や神経に障害が生じることで発生します。
上まぶたを持ち上げる筋肉に障害がある場合、原因としては先天性の挙筋腱膜の欠損、加齢やコンタクトレンズの使用によって挙筋腱膜が伸展してしまい、適切な力が瞼にかかっていないことなどがあります。
動眼神経麻痺などの神経的要因による眼瞼下垂の場合は、脳神経外科や脳神経内科での診察が必要です。
主な症状としては、まぶたが視野を遮ることにより物が見えにくくなることがあります。視力は通常関係しないので、視力の問題の場合には眼科での精査を受けてください。
また、まぶたを上げるために額の筋肉などを使うことになるため、連続する頭の筋肉が常に緊張し、頭痛や肩こり、目の疲れなどの症状を引き起こすこともあります。うつ病との関連が指摘されている報告もあります。
治療について
治療に関してですが、眼瞼下垂が神経疾患によるものでなければ、手術による治療が一般的です。費用に関しては、美容目的でなければ保険が適用されます。当院での手術は日帰り(外来)で行われます。
通常、挙筋前転術という手法を用います。局所麻酔下に瞼を切開し、必要に応じて余った皮膚を切除し、挙筋腱膜という瞼を引き上げる組織を適切な位置に糸で縫合します。左右のバランスを見ながら挙筋腱膜を固定し、皮膚を最後に縫合します。通常最初の1週間はかなり強く腫れがでて、その後も約1か月間は腫れが続くことがあります。
先天性の眼瞼下垂の場合、通常は太ももなどから筋膜を移植する手術が必要であり、全身麻酔下の手術が一般的であるため、総合病院に紹介となります。
目の周囲の手術に関しては眼科を受診する方も多いですが、眼瞼下垂の治療は形成外科の専門医が担当することが一般的です。
わきが(腋臭症)
わきの下に位置するアポクリン腺から分泌される汗が、細菌によって分解されることで臭いが生じます。
単なる汗の臭いの場合には原発性腋窩多汗症との鑑別が必要であり、外用療法で改善が見込める可能性があります。アポクリン腺による臭いが原因の場合には手術療法が適応ですが、皮膚を切開し、有毛部といって腋毛のある部分のアポクリン汗腺をできるだけ除去します。アポクリン汗腺は腋窩だけに存在するわけではないので、手術を行っても完全に臭いがなくなるわけではありません。た、異臭症という状態もあり、実際にはほとんど臭いがないにもかかわらず、自分だけが臭いを気にすることがあります。このような場合、心療内科との併診が必要になることもあります。
手術の適応については、診察時にご相談ください。